ライブ・サインズ第1話~オジ専君主と暴食男爵~#4

 7 “大食い男爵”ザジャブ

「ゲゲッ。到着致しました」
 ゲッサムの言葉を受けて、セリアたちは馬車から降りた。
「臭っ」
 思わず鼻を押さえるエルーク。セリアもオレンも、鼻をつまみたい衝動に駆られる。
 城門の前には並木のように槍が並び、何十体もの白骨がさらされ、すさまじい腐敗臭を放っていたからだ。
「バッバッバ。盗賊の死体ですよ。見せしめです」
 バルゴンは凄惨な笑みを見せた。

 *

 セリアたちは城内の、なぜか食堂に通された。
 件のザジャブは細身の美丈夫だが、その前には数十人前の食事が並べられ、まるで飲み物のように肉やパンを食べ続けている。
 ザジャブはちぎったパンを飲み込むと、言った。
「セリアーナ殿、エルーク殿、オレン殿、食事中で失礼。ご一緒にいかがです?」
「そういや腹減ってきたな」
 腹の虫を盛大に鳴らしたエルークに、セリアは小声で問うた。
「エルークさん、薬のような臭いは」
「しねぇ。いかがですって言ってくれてんだし、甘えよーぜ」
「そうだな。腹が減っては戦はできぬ」と、オレン。
 同席することを決め、三人はイスに腰掛けた。ちょうどザジャブと向かい合うような格好だ。
「我が城には、少し前まで別のメイジがいたのですが、謎の失踪を遂げましてねぇ。困り果て、アカデミーに願った次第です」ザジャブはステーキをワインで流し込むと、「貴女のような方と契約できるとは、実に嬉しいことです」
 と微笑んだ。先ほどの悪評がまるで似合わない、至極純粋に見える笑みだ。
 セリアはその落差に底知れなさを感じたが、努めて表に出さないように、
「差し出がましいようですが、ザジャブ様。領内の混沌が濃いようにお見受けしたのですが、あなた様は混沌の制御は」
「このような戦乱の世ですからね。まずは我が聖印と軍を強化するため、喰らうための混沌を集めている最中です。フフ、パンを、もっといかがですか?」
「混沌を喰らうって……邪紋使いかよ」
 エルークは、ナイフとフォークで肉を切り分けつつ、ボソッとつぶやいた。あいかわらず手つきがぎこちない。本当は直接かぶりつきたいぐらいなんだろうな、とセリアは思う。
 オレンはスープのコップを置いた。
「お言葉ですが、ザジャブ卿。その混沌を集める過程で、民を失くしては意味がないのでは」
「どうせ周囲の国をたいらげ、こんな痩せた土地より良い土地を得るのです。少々領民が減っても問題ありませんよ」
 ザジャブは召使いにステーキのお代わりを命じた。セリアたちに会ってからだけでも、すでに十人前はたいらげているように見える。
「ロードの本分は、戦争に勝ち、他の聖印を喰らうことでしょう。皇帝聖印が生まれれば混沌も消える。それが、あなた方アカデミーの教えるところです」
 ザジャブは、ステーキのお代わりに早速手をつけ、セリアたちを見やった。
「フフ、肉を、もっといかがですか?」

 *

 セリアたちはひとまず、魔法師とその護衛として城に招き入れられた。
「エルークさん、ザジャブはどんな匂いでした?」
 セリアが訊いた。
 彼は、人の善悪が匂いと直感で判別できるという。あくまで自称だが、精度は高く、セリアも信用している。
 エルークは思いきり顔をしかめた。
「ゲス以下の臭いがしたな。確実に悪人だ」
「で、これからどうする?」
 オレンの問いに、セリアは、
「私は、失踪したというメイジのことを調べてみたいと思います」
「そうだな。城の資料庫を漁れば、領内の事情もわかるだろう」
 するとオレンは、振り返ってエルークを指差し、
「よしエルーク、探せ!」
「おう! って、さらっと犬扱いすんじゃねぇ!」

 8 情報収集

 三人は、城の資料庫――場所を特定したのはやはりエルークだった――をあさっていた。書庫番はいたが、セリアが「契約魔法師として、ザジャラーク領の歴史を把握しておかねば、と思いまして」と出まかせを言ったら、まんまと騙されてくれた。
「お、これじゃねーか?」
 エルークが開いたページを、二人して覗き込む。
「数週間前に謎の失踪……そのようですね」と、セリア。
「カサンドラ、ってことは女か? 一年前に契約、黒いフードをつねに目深に被り、虹色の目を持っていた、か」
 文字列を指でなぞりながら読み上げるエルーク。
「待てよ」オレンがつぶやく。「イガナ村の村長曰く、ザジャブが混沌を放置し始めたのは一年前。このカサンドラとやらと契約した時期と一致しないか?」
「この魔法師がザジャブをそそのかしたってことか?」と、エルークは首をひねる。
「『カサンドラ』について、協会に問い合わせてみますね」
 セリアは魔法杖を取り出し、魔法師協会との通信用の術式を展開した。
 しばらくして、
「協会には、そのような名前のメイジはいないことになっていますね。死亡記録もないようです」
 術式を閉じつつ、二人に伝えた。
「えーと、つまり?」と、エルークはふたたび首をひねる。
「可能性はひとつ。闇魔法師だろう」オレンが言った。
 闇魔法師。魔法の知識を消されることなく、魔法師教会から脱走した魔法師たちの総称だ。彼らのほとんどは、自らの邪悪な目的のために魔法を行使する、極めて危険な犯罪者である。
「だったら許せません! 闇魔法師滅すべし!」
 拳を握りしめたセリアを見て、オレンは、
「ああ、そういえばお前は闇魔法師に」
「ちょおおお! オレンさん、そのことについては堅く口を閉ざしてください、とお願いしましたよね⁉ 外聞晒しですから!」
「セリアに弱みが⁉」と、エルークは目を輝かせたが、
「わかっている。もしこの駄犬が嗅ぎまわろうとしたら、直ちに毛皮にするから安心しろ」
 オレンの言葉を聞いて縮み上がった。
「それにしても、混沌を喰らうとは言っていましたが、どうするつもりなのでしょう? 混沌が収束するのを待つのは非効率的すぎますし」と、セリアは指をこめかみに当てた。
 オレンも腕を組む。
「そうだな。それに戦争を仕掛けるつもりなら、兵力も揃えなくてはならない。だが『領民は減ってもいい』と言っていた以上、民兵を使う気はなさそうだ」
「これはあれだな、ザジャブ本人に直接訊いたほうが早そうだ」
 エルークは思考を放棄したらしい。
「よしセリア、任せた!」
 オレンに指差され、セリアは軽く息をついた。
「来たばかりのメイジに話しますかね、そんなこと。頑張ってはみますけど」
 と、
「……不穏な臭い」
 エルークが突然立ち上がり、資料庫から出ていった。
「野生のカンですかね?」と、セリア。
「本の後片付けが嫌なだけではないか?」と、オレン。
 仕方ないやとため息をつき、セリアは本の片づけを始めた。

 *

 少しして、エルークが戻ってきた。
「残念だったなエルーク。まだ片付けは終わってないぞ」
 オレンは両腕にありえない量の本を抱えている。
 エルークは「何を言われているのかわからない」という顔をしたが、すぐに思考を放棄し、一枚の紙を取り出した。
「ザジャブのヤローが、こんなもん落としてったが」カサカサと開き、二人に見せる。「オレには、なんのことだかサッパリで」
 そこには、何やら機械の図面のようなものが描かれている。周囲に細かくびっしりと書かれた文字は、その解説だろうか。
 セリアは紙を見つめながらしばらく考え込んでいたが、やがて、
「これ、一種のアーティファクトじゃないでしょうか」
「あ、あー、てぃ?」エルークがぎこちなく繰り返す。
 オレンは抱えていた本をしまい、
「確か、アカデミーが製作する『魔法の物品』だったか。メイジ以外の者でも魔法、ないしはそれに似た効果を得られるとか」
「で、これの効果は」
 セリアはしばらく指を空中でくるくると回していたが、ふとそれを止め、
「混沌を人に刻む、ってところでしょうか。それもこの出力だと、強制的に、ですね」
「つまり、人を強制的に邪紋使いにする、ってことか?」
 エルークの問いに、セリアは、
「はい。このパターンなら、アンデッドになるんじゃないでしょうか。しかも対象の意思を奪う、というおまけ付きです」
「なんてことだ」オレンが重々しく口を開いた。「ザジャブは領民に混沌を刻み、アンデッド……つまり、死なない兵士にする気なのでは?」
「しかも、意思がないから逆らうこともない」
 セリアが言葉を継ぐ。
「刻めるだけの量を集めるために、混沌を放置してたのか!」
 エルークは、合点がいったように指をはじいた。

 *

 一方そのころ、イガナ村では。
 周辺の村々を訪ねて回ってきたクリス、アルベルト、ヒヅマの三人が、今後どうするかを会議していた。
 アルベルトは、ミミが入れたお茶をひと口すすると、
「他の村々でも、ザジャブへの不満は大きいようだが……奴の力を恐れて立ち上がれずにいる、という感じか」
「説得してみるしかなさそうだね」
 クリスは、アルベルトの愛馬ローザにニンジンを与えながら言った。愛馬は今、主人の聖印の効果で、手のひらサイズにまで小さくなっている。
「あと、『収容所』を探して、捕らえられてる人たちを解放しなきゃ! どこの村でもおじさまを見なかったもの、おじさま方はきっと収容されて……!」
「とにかく」ヒヅマは、語り口が荒くなってきたクリスを止めるように、「今日はもう遅い。それらの活動は、明朝からにしましょう」
 と、
「痛ったぁ⁉」
 ローザがクリスの指に噛みついた。こぼれ落ちたニンジンの欠片を追いかけ、がぶりと食らいつく。
「ご、ごめんね、気が利かなくて」
 クリスは手をぶらぶらさせながら謝ったが、ローザは見やりもしない。
 と、
「あ、あのぅ」
 ミミが遠慮がちに声をかけてきた。
「どうしたの、ミミちゃん」
 クリスが答える。が、ミミはヒヅマに視線を移し、
「ミミ、おじちゃんと一緒にねたい!」
「「はっ??」」
 絶句するクリスと困惑するヒヅマに、村長が声をかけてきた。
「ヒヅマ殿を父親と重ねているのでしょう。この子は両親を失っておりますから」
「ねぇ、おじちゃん、ダメ?」
 ミミはうるうるとした目でヒヅマを見上げた。
 さらに村長が追い討ちをかける。
「一晩だけ、この子の我がままを聞いてやっては頂けませんか」
 クリスがわなわなと震えた。
「ダメに決まってるでしょ! ヒーちゃんは疲れて……!」
 しかし、ミミの次の言葉で、クリスの態度は一変することになる。
「お姉ちゃんも一緒に……ダメ?」

 続き→http://29318850.at.webry.info/201502/article_11.html

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